高校を卒業して田舎からすぐに東京に飛び出してきた青年蓬莱は、
演劇の作・演出家を目指して舞芸に入学する。また同じように田舎
から上京し、役者を志すたくさんの同志たち。俳優志望、女優志望、
まさに出会いの季節だ。これは上京してきた人間としては興奮する。
有り体にいうと「未来は輝いている」というやつだ。青年蓬莱は東
京の一つ一つを目の当たりにして、一種の興奮状態にあったように
思う。渋谷的なもの、新宿的なもの、池袋的なもの、板橋的なもの
に興奮していた。楽しかった。
青年西條、青年津村も同じく上京組だった。しかし青年古山は違
った。東京組だった。シティボーイだ。余談だが、古山をシティボ
ーイと感じたエピソードがある。入学して間もないころ、青年古山
と街を歩いていた。青年古山は僕のやや前方を歩いてリードしてい
る。このあたりで既に上京組と東京組の差を感じるというものだが、
青年古山は突然噛んでいたガムを道端にペッ!!!と捨てたのだ。
非道である。古山は今もってメンバー達に敬語で喋るというへりく
だりのスタイルを貫いているが、舞芸時代も当然へりくだっていた。
優しい男だと思っていたが、突然のペッ!!!である。古山の名誉
の為に言っておくが、今の古山は絶対にそんなことはしない。人の
飲んだ缶も自分のチャリカゴに入れて持って帰るという立派な男に
成長した。今の古山は日々徳を積むということだけに懸けているい
っても過言ではない。だが当時、青年古山の行動は僕にとってはシ
ョッキングだ。しかしショッキングに感じる一方、ひゅ~シティボ
~イ、と感じさせる何かがあった。上京組は上京したてでまずそん
なことは出来ない。「東京の道」だからだ。しかし青年古山は違う
「俺の道」だ。ここに『あ、コイツ本当にここで育ったんだ』とい
うリアリティがあったわけである。
第一話「旗揚げまでに語るべきいくつかのこと(前編)」蓬莱竜太