話を戻す。
青年西條は、長野のヤンキーあがりだった。今でこそ西條さんは
笑顔がチャーミングな、シワが味わい深い顔をしているが、当時は
肌がツルッツルッしていた。いや、若いから当たり前なのだが、し
かし度を超してツルッツルッなのだ。やたらめったらキリッとして
おり、五月人形の若武者状態であった。若武者が遠くから歩いてく
るよ?!という感じだった。声楽の授業でも一番後ろにいて「もっ
と音大きくなんねぇのぉ?」とか言ってくる。(これ、イントネー
ションも正しくお伝えしたいのだが、平板である。高さを同じにキ
ープしてやってみてほしい。かなり近いはずだ)怖いし、若武者だ
し、苦手だった。ちなみに西條さんは舞芸を卒業する際に、二年間
最も勉学を頑張った生徒に贈られる野尻賞なるものを受賞している。
さすがである。
青年津村は北海道からやってきたナイフだった。役者を目指し東
京にやってきた。努力を怠るな、演劇が恋人だ、彼女とか作ってん
じゃねぇよ、突き抜けたいんだよ俺は!と、ギラギラしていた。ま
さにナイフ。授業は一番前で受け、発表のチャンスがあれば我先に
と手を挙げる。あれ?なんで津村は野尻賞貰えなかったんだ?すげ
え頑張ってたのに。まぁいいか。今俳優津村を知っている関係者達
はイメージと違い過ぎてちょっと信じられないんじゃないだろうか。
しかし酒を飲むと少しわかるのではないだろうか。酒を飲むと色々
な意味でナイフだ。それは昔から変わらない。今でも触るもの皆、
傷つけてはいないだろうか。心配である。
青年古山はあまりの独自のマイペースさに、早々に皆の注目を浴
び、宇宙人説も出るほどにクラスの中でオリジナルの市民権を獲得
していた。まぁつまり、今と何ら変わらない。
ここにまだ小椋さんの存在はない。
第一話「旗揚げまでに語るべきいくつかのこと(前編)」蓬莱竜太