第十話「青春時代と呼ぶならば」
蓬莱竜太
北海道公演が突然決定した。
函館でも札幌でもなく、登別だった。登別。札幌から車で二時間く
らいだろうか。登別温泉が有名。そこは劇団員の津村の故郷である。
市の事業の一環として立ち上がった企画だったと記憶している。津
村の父君が役所に勤めておられ、きっと想像するに、
「東京の芝居を呼ぶって言っても、てんでわからんねぇ」
「津村さん、ノッシ(津村のこと)は確かは東京で劇団に入っとる
んじゃなかったかねぇ」
「なんかやっとるみたいやねぇ」
「おう、あのノッシが!そう言えば東京行ったんやったねぇ」
「たしかモダンなんちゃら言うたかなぁ」
「おうおう、それ呼べばいいんじゃないの?」
「有名な劇団なの?」
「東京でやってるくらいだから有名なんじゃないかい」
「本当か!おうおうじゃあ凱旋公演ちゅうことで」
「じゃあ、今電話してみるかねぇ」
こんな感じでざっくり決まったのではないか。
津村は東京でまだ何も成し遂げていないのにいきなり凱旋公演とい
うことになった。実際彼は北海道の地方新聞に取材されたりしてい
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