かと。こんなに心を許して人とお酒が呑めるものなのか。こんなに も暖かいものなのか、と。恥ずかしいが沁みた。幸せとはああいう ことだ。僕たちは若く、これから楽しいことばかりが待っている予 感があり、そして北海道にいる。好きな芝居をやりながら毎晩酒盛 りをする。これが青春時代でなくてなんなのだ。座長は蟹の身を甲 羅にいっぱい溜めていた。最後に日本酒を注ぎ、満面の笑みで蟹味 噌と共に流しこんでいる。津村は実家にいるといつも照れくさそう にしていた。母君が大きな声で冗談を言ったり、わが息子を愛して る!と言ったりするたび、もの静かに笑っていた。恥ずかしいのだ。 古山は、いつも通りだ。いつも通りへりくだり、いつもの感謝と謝 罪を繰り返している。小椋さんは残念ながら、まだいない。僕は毎 夜酒盛りをそこそこに切り上げ、津村の家に戻り、次の公演の台本 を執筆していた。えらくタイトだったのだ。北海道公演が終わると すぐに本公演の稽古が待っていた。客演陣も北海道公演を終えてそ のまま本公演の稽古に参加するというのがほとんどだった。もうみ んな芝居漬けである。彼ら彼女らとはずっと芝居をやり続けていく と思っていた。今はいない。それぞれの道を歩いている。そのまま ではいられないものだ。だからこそ青春時代だったと今になって思 うのだ。眩しくもあり、儚くもある。あの頃はそれが当たり前だっ たし、どこかでは必死だったので青春なんて思っちゃいないが、し かし今思うにそういうことである。 朝ご飯を食べて稽古場に送り出して頂いた。昼ご飯も用意して頂き、 稽古を終えて帰ると夕食と共に暖かい笑顔で迎えてくれる。北海道
第十話「青春時代と呼ぶならば」蓬莱竜太