京の人間も入り混じり、肩を組みながら熱唱、叫び、別れの感涙、 全員で円陣、もう意味がわからない。とにかく燃焼した。 次の日の朝、皆に「昨日の蓬莱はすごかった」と言われる度にぞっ としていた。常に客観性を持つことを心がけている自分が、昨晩は 我を忘れ、一体どういう状態にあったのか。よっぽどホッとしたの だろう。まぁしかし地方公演の打ち上げである。無礼講だしいいか、 と思っていところ。二日酔いでぐったりした状態で空港に向かう車 の中で、運転している津村の父君が、 「昨日のカラオケ大会、CDに録音してあるよ」 と言う。 「は?」 と僕は言う。 そして父君はいきなり車中でカラオケ大会の模様を流し始めたのだ。 スピーカーから地獄の釜をひっくり返したような音が飛び出してく る。僕が叫んでいる。寒いことをシャウトしている。とても奇麗に 録音されてある。なんという拷問なのか。二日酔いのシラフ状態で 自分の異常な状態を耳にする。こんな恥ずかしめを経験したことが ない。車の中で、昼間に、覚めた状態で、馬鹿な自分のシャウトを 耳にする。僕は石化していった。津村も「お袋愛してるぜ!」とか 叫んでしまっている。それはもう叫んでしまっている。皆、石化。 何はともあれ、僕たちの初地方公演はただただ楽しかったのである。 空港で毎晩飲み明かした人達とお別れの時である。
第十話「青春時代と呼ぶならば」蓬莱竜太