は何なんだ。心でいつも笑っていた。そして謝っていた。申し訳な
い。申し訳ない古山よ。しかし我慢してくれ。きっといい舞台にな
る。俺はこれをやりたいんだ。
やりたいんだと思っていたのは覚えてる。しかしその理由がまるで
思い出せない。
何故だ。何故かぶり物。何故馬なんだ。
大事なのはかぶり物だったのか。馬だったのか。それすら思い出せ
ないぞ。
そんな大した理由じゃなかったのかなぁ。ふと、面白そうと思った
だけなのかなぁ。いや、作り手としても結構なリスクではないか。
主人公がずっと馬のかぶり物をしている。これが受け入れられなけ
れば全部崩壊するわけだから挑戦といえば挑戦だ。それ相応の覚悟
と情熱があったのだ。
あったのは覚えているが、思い出せないんだ。
この舞台で一つ発見したことがある。馬に表情があった、というこ
とだ。勿論実際にはかぶり物なわけで動くわけがない。しかし不思
議と変化して見えるのだ。役が怒っているとき、笑っているとき、
泣いているとき、馬もその表情をしているのだ。つまり内側にその
感情があれば、それは伝わるということだ。同時に顔の表情で演技
をする無意味さが露呈したともいえる。「これは能だ」と思った。
能の世界。能面一つであらゆる表情を見せる。むしろ能面だからこ
そ色んな表情を想起させる。逆転の発想。観ている人間の想像力を
持って完成する現象。思わぬ発見、思わぬ発明。やって良かった。
第十一話「何故馬なのか」蓬莱竜太