「親に怒られる・・・」と泣きそうになっていた。こっちは笑いた
いが笑うのをこらえていた。健康ランドで湯船につかるMくん。身
体を洗うMくん。十字モヒカンに子供たちは笑い、大人たちはより
つかない。僕たちもあえてよりつかない。本番中のMくんは大変な
忙しさだった。裏でテレビのコンセントのオンオフ、窓ガラスも割
らなければならなかった。この窓ガラスが割れるというのは作品の
クライマックスでとても大事な演出なのだ。Mくんはセットの裏の
陰にかくれ、芝居の呼吸に合わせて、金槌で割るわけである。タイ
ミングが命の場面である。本当にドキドキします、とMくんはいつ
も泣きそうに言っていた。しかもその直後に舞台に飛び出して、
「マッポ来ましたよ!!」という芝居があるのだ。一分以上延々一
人でまくしたてて去っていくというシーン。僕もよかれと思って書
いたのにもMくんは「なんでこんな大変なことになっているんだ」
としか思っていない。今や古山の「出してあげれば?」はただのあ
りがた迷惑になっていた。車こするわ、裏が大変だわ、出演するわ、
あげくモヒカンである。この世の理不尽さを一人で背負っているよ
うな表情をしていたMくん。いいやつMくん。
そう、MくんはMだったのです。
ちなみに、「由希」というのは、族を抜けてこれから親になる男が
電話で奥さんに子供の名前を命名するそのラストシーンに出てくる
のであった。
ちゃんちゃん♪
第十三話「由希」と「M」蓬莱竜太
平
成
二
十
七
年
八
月
某
日
、
自
宅
に
て