さんが最も大変な闘いを強いられているとも言える。他のメンバー にはない苦労をしているはずだ。しかしこの両方を獲得出来る役者 がいるとしたらうちのメンバーでは小椋さんしかいない。技術を捨 てる芝居は全ての人間が到達出来ると僕は思っているが、技術が要 求される芝居は技術のあるものでしかやれない。誰でもやれること ではない。二刀流。小椋さんには二刀流を極めてもらい、更には三 刀流、いや、十刀流くらいの達人になってもらいたい。 さて、この小椋さん。金杉忠男氏が他界してその集団が解散するこ ととなり、しばらく演劇から遠ざかっていたそうな。一度、大山駅 の踏切でばったり会ったことがある。僕はモダンの稽古か何かで、 小椋さんから声をかけてくれたと記憶している。 「頑張ってるみたいじゃない」 といったような些細な会話だった。 天才小椋は今何を?といった時期だったので、僕も若干緊張気味に 短いやりとりを交わした。 妙な空気だった。僕の考え過ぎかもしれないが、演劇を志した人間 は現場に立ってないと、それだけで誰かに見られたくないような、 近況を聞かれたくないような、寂しさと苦しさと羞恥心がある。か つて僕もそうだった。第三話に記述していますので是非ご参照下さ い。奇麗さっぱり足を洗っていればそうではないかもしれないが、 やはり諦めきれない、どこかで演劇を求めている場合はバッターボ ックスに立っていない苦しさが底はかとなくその人間から漂うもの だ。その時の小椋さんがそんな感じだった。後々知ったが小椋さん
第十四話 五十嵐伝から十年か