第三話「動機、欲求、始動する」
蓬莱竜太
(前回からの続き)電話口の津村は丁寧調。
用件は舞台監督をやってくれないか、ということだった。
津村は「コインロッカーベイビーズ」解散後、例の先輩劇団に所属
していた。実は「コインロッカーベイビーズ」の俳優の何人かはそ
ちらに流れていった。彼らがそこで頑張っていることを僕は知って
いたし、彼らも僕が裏方の世界で生きていることは知っていたのだ
ろう。先輩劇団のなかで彼らはメインキャストとして活躍していた。
先輩方には彼らの受け皿になってもらったばかりか、彼らの魅力を
引き出していただいた。今でも本当に感謝している。とにかく津村
たちが所属した劇団は公演をうつにあたり舞台監督を探しており、
そして僕にお鉢が回ってきたわけである。何故僕に頼んできたのか、
その経緯は今も知らない。
舞台監督というのは簡単にいうと裏方のしきりなのだが、小さな
劇団の公演につく舞台監督はしきりもなにも人手が足りないので、
監督というより「色々なことを一人でやらなければならない係」で
ある。存外大変なのである。結局僕は引き受けることにした。僕は
裏方の会社で働いており、それが舞台監督のオファーである以上、
断る理由はないからだ。仕事だ。何とも奇妙な感覚だった。何年か
第三話「動機、欲求、始動する」蓬莱竜太