稽古は順調だった。未熟過ぎてひどかったのかもしれないが、当
時の僕は順調に感じていたと思う。前にも書いたが楽しい記憶ばか
りである。僕の記憶に割と鮮明にあるエピソードを二つ程書き記し
たい。両方とも現劇団員、古山にまつわるエトセトラである。
9名で作るので色々なことを全員がやらなければならない。当然
衣装さんなどいない。自分たちで持ち寄るわけだ。この「モダンス
イマー」という芝居は登場人物の名前にそれぞれ色を示す漢字が入
っていた。役名はハッキリとは覚えていないが、赤城、黄島、緑川、
青田とかそんな感じだ。役の名前と同じ色のTシャツを衣装にする
プランで、無地は駄目という決まりにした。自分の役の色のTシャ
ツを自己責任で何枚か持ち寄って僕が決めるという段取りだ。古山
は赤色だった。他はどんどん決まっていくのに古山はいっこうにT
シャツを持ってこない。あとあと僕たちは長い付き合いのなか知る
ことになるが、古山という男は病的に本当にシュールなくらい衣装
に頭と心を使わないのだ。
「Tシャツどうなってんだよ?」と聞くと
「え、あぁ、いや、(本人が着ている稽古着のTシャツを掴んで)
これでいいかなと思って、え、駄目ですか?」
とか本気で言ってくるのだ。
それ赤じゃねぇし!稽古着だし!
僕たち劇団員はその後何年も、何回も
第四話「旗揚げ『モダンスイマー』」蓬莱竜太