僕は鼻たれ小僧なので座長の提案に「え~、やだ~、だって実質
2年空くってことでしょ~やだ~」と駄々をこねたものだ。前にも
書いたが、1年に1回のモダン公演こそが、生活に追われる僕の支
えでもあったし、演劇を創ることが僕の唯一の栄養剤だった。それ
が二年間も滞るなんてことは考えられなかったし、考えたくもなか
った。大人の事情も知らないで座長に「ホントに駄目?どうやって
も出来ない?」と懇願した。座長は手帳をじっと見ていた。
「待ってよ」といいながら思考していた。僕は今でも覚えているが、
座長は一瞬、よしやろう、と思ったはずだ。その瞬間を僕は見逃さ
なかった。口には出さなかったが「よし、やろう」と一瞬彼は思っ
たのだ。僕は座長のその空気を感じて「よし」と心で思ったもの。
だけど座長は次の瞬間「いやいやいや待って待って待ってろ~」と
言って再び手帳を睨んだ。
「踏みとどまった!」と僕は思った。あと少しだった。座長は「よ
しやるか」と言う手前まで来ていのだ絶対に。こっち岸に足はかけ
ていた。
土俵でいうあの一部ひょこっと出ている「徳俵」まで追いつめてい
た。
120円の自販機でいう110円までは入れていた。いやラストの
10円玉も半分は投入口に入っていた(意味わからん)。
しかし座長は踏みとどまった。そして沈黙のあと「いや―」と言っ
た。
「いや?」と僕は思う。
第六話 海底の話だ『ベリーブルーベリー』蓬莱竜太