き下ろされた。しまいには「まぁ、こういうことやりたい歳なんだ
よな」と笑われ、まとめられた。腹も立っていたが、どこかで納得
もしていた。疲れていた。心の電源を切りかけていた時だった。重
鎮の作家先生がふと僕に言った。
「ただ。ただあのシーンだけは面白かった」と。あるシーンを挙げ
たのだ。僕はそれを言われた時に何か妙な感覚に襲われた。そうだ
ろうな、とふと思ったからだ。何故なんだろう、それを聞いて何で
自分はそうだろうなと思うのだろう。という疑問が同時に沸いてい
た。
「あのシーンにはお前が見えるからだ」とその人は言った。そのシ
ーンは男女二人のシーンだったのだが、どうにもならない男の気持
ちと全く違うストレスを抱えているすれちがいの男女がぶつかり合
うシーンだった。実際に書いていて楽しかったし、そのシーンだけ
は、主流も、こうあるべきだも、一切考えずに書いた自覚があった。
その作家先生はそこだけが面白かったという。何だこれは、という
妙な胸騒ぎ。とても大事なヒントを言われているのだが、ヒントの
真意がわからない時のようなもどかしさだった。
確かにそうかもしれないです。と僕は言った。あのシーンだけは本
当に楽しんで書いた覚えがあります、と。事実そうだった。楽しん
だが苦しんで書いたシーンでもあった。その時の自分の状況とその
シーンをリンクさせていた。大げさに言うと自分を生かすために書
いていた。他のシーンと質が全く違っていた。
「それなんだよ蓬莱。あのシーンのお前の感覚、そこにこだわって、
第七話「人生を変える言葉」蓬莱竜太