粘って描くのが作家なんだよ」 その言葉で僕の霧は突然晴れた。 まさにそうだった。 抱えてた違和感の先を見つけた感覚だった。喉に刺さっていた小骨 が取れたような。しかしそれは同時に大きな山がそびえていること も示唆していた。 主流もシニカルも関係ない。コミカルもポップも関係ない。自分の 感性のみで闘う。客がのぞむものよりも、まず自分がのぞむもの。 その欲求、その衝動に従い、そして粘って書く。 さて、その道を選ぶとどうなるか。早々にハッキリするだろう。自 分が作・演として望まれる存在か望まれない存在か。通用するかし ないか。もううやむやには出来ないし、うやむやにならない。それ は恐いことである。わざわざ自分でリトマス試験紙を使い、才能の 有無を調べるようなものだ。しかし本当に恐いのはその次である。 もし望まれなくても、それでも作りたい世界があるか、否定されて もやりつづけたいほどの欲求が自分にはあるのか。例え何人かしか 観に来なくても、自分にとって表現するということは必要なもので あるのか。自分を知ることになる。その覚悟があるか。試される。 評価は人を狂わせる。評判がいいと人は安心する。安心して続けら れる。続けたいから評価を得ることに重きを置く。しかしそれは表 現の本質とは大きくかけはなれたものだ。表現の本質は衝動だ。評 価ではない。
第七話「人生を変える言葉」蓬莱竜太