立ちだった。台詞は殆どない。当時僕は座長を喋らせないように喋 らせないようにしようと、そういう方向に持っていくことで彼を生 かしている、彼の何かを守っていると本気で思っていた。その公演 の後、真顔で座長に「俺に喋る役書いてくれないかな。俺、喋りた いんだよ」と言われた。後にも先にも座長特権を生かした一度だけ のワガママだったと思う。いやいや、スイマセンでした。  バイクを入れたり、鉄道模型を走らせたり、まぁ転換も大変、出 演者総出でテンヤワンヤだった。さて、結果どうなったか。結果こ の作品が劇団を想像もしていなかった方向に押し上げることになっ た。ポイントは旗揚げから何度も登場している他劇団の作演出の田 村氏。舞台芸術学院の後輩である。彼の劇団は先に売れており、そ んな彼を僕たちは俺たちの方が先輩だから、みたいな感じで役者と して使っていた。田村氏が役者で出ているから著名な演劇ライター の方や雑誌の編集の方が観に来てくださり、この作品を観て次の作 品から写真入りで大きく劇団の作品を取り上げて貰えるようになっ たのだ。つまり、はい、運がよかっただけでございますの。毎晩田 村氏がいらっしゃる方角にお祈りを捧げておりますの。これはもう 田村氏を旗揚げから使い続けたこちらの作戦勝ちとしかいいようが ない。田村氏は僕たちがくすぶっている間に才能を発揮して売れて おり、俺たちゃその恩恵にいいタイミングで預かるという神をも恐 れぬ所業を平然とやってのけた。勝手に劇場を大きくして、人のコ ネクションで演劇界に名を売るという荒技、裏技、裏口入学だ。運。
第九話「転換期。最後は運だぜ」蓬莱竜太