ると結局彼の方が多くを経験していることになる。気がついたら色 々な経験値は僕より古山の方が上だ。こうなってくると不思議であ る。例えば、小さな水たまりがあるとする。この水たまりはよけた い。しかしそのそばには泥沼がある。もし水たまりをよけると泥沼 にはまってしまう。だから甘んじて水たまりに入り、泥沼はさける。 これが一般的セオリーである。古山という男は水たまりを発見した ときに泥沼は見えていない。うわっ水たまりだ。これすっごい嫌だ なあ、絶対濡れたくないなあ、と水たまりに心を奪われる。もう少 し視界を広げれば泥沼があるのがわかるのに水たまりに心をとられ、 泥沼を発見出来ない。結果水たまりを回避して泥沼に落ちる。濡れ たくなかった男が結果泥まみれである。それを見て僕は馬鹿だなあ と笑ったり嘆いたりする。しかしである。しかし彼は人があまり経 験出来ない(しない)ことを知っているわけである。泥沼の感触、 深さ、匂い、味を。結果彼は多くを知る男になる。もう僕なんかよ り先輩だ。ひょっとして彼は短い人生にあらゆるものを詰め込もう としてあえて泥沼にダイブしているのか。 いずれにせよ彼の幸せを願わずにはいられない。  西條夫婦に子供が出来た。感無量である。僕の身近にいる人に子 供が出来るとは。初めての経験だ。専門学校から知っている西條さ ん。座長。彼に家族が出来た。以前から座長も望んでいたことだっ た。それだけに感慨もひとしおである。座長には家族がよく似合う。
復活編「どんな顔をして再開すればいいですか」蓬莱竜太