HOME > next stage > 道産子男闘呼インタビュー

同郷の飲み会から始まった『道産子男闘呼倶楽部』


━━ 最初に『道産子男闘呼倶楽部』が結成された経緯について聞かせください。

  • 犬飼: 演劇ユニットとしては2014年から始まったんですけど、道産子男闘呼倶楽部という名前自体は20年くらい前からありました。というのも、もともとはただの飲み会だったんですよ。僕と津村くんの。

    津村: 犬飼さんと僕が同じ北海道出身で、なおかつ共演する機会がとても多かったんです。犬飼さんが所属している扉座の公演に僕が出させてもらったり、モダンスイマーズの公演に犬飼さんが客演してくれたりしていて。それで意気投合して、飲みに行くようになり、道産子男闘呼倶楽部という会ができたという感じですね。


━━ そこから演劇をやることになったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?

  • 犬飼: 僕が椿組の舞台で、文学座の粟野史浩さんと共演する機会があったんですよ。彼も北海道出身で、モダンスイマーズの作品にも出演経験があったので津村くんとも知り合いで。それで道産子男闘呼倶楽部の飲み会に誘ったら来てくれたんです。そうして道産子の役者が三人集まったので、これはちゃんと演劇をやろうという話になりました。なので、演劇ユニットになったのは、粟野さんが参加してくれたことがきっかけなんですよね。

    津村: 今は基本的に僕と犬飼さんの二人でやってるんですけど、粟野さんがいなかったら演劇ユニットにはなっていなかったかもしれないですね。


━━ これまでの公演は東京をメインとしつつ、北海道でも開催されていますよね。
  北海道出身者でやるからには、やはり地元で公演したいという想いがあったんですか?

  • 犬飼: 北海道で公演できたらいいなっていうのは、最初から思ってましたね。地元の人たちに見てもらいたいし、北海道の演劇関係の方々とも繋がっていきたかったので。

    津村: 僕らはずっと東京で活動してきたので、北海道の演劇事情には疎くて。でも、北海道を舞台にした演劇を作って、それを地元でやることで、演劇関係の方々と繋がっていけたらなという気持ちはありました。


━━ 実際に北海道で公演をされてみた印象はいかがでしたか?

  • 津村: 初めてやったときは、本当にいろんな方がご協力くださって、お客さんもたくさん入っていただきました。公演では、すごく温かい声援をいただいたのが嬉しかったですね。ただ、当然のことながら、僕らが北海道出身だからってことだけで、毎回お客さんが集まってくれるほど甘くはないというのも実感しています。

    犬飼: 地方で芝居を打つのって手間がかかるし、集客も簡単ではありません。だけど、2022年に鄭義信さんが作・演出を手がけてくださった『五月、忘れ去られた庭の片隅に花が咲く』という舞台を札幌でやった際には、たくさんのお客さんが来てくれました。やっぱり、いい作品には人が集まってくれるんだと実感する体験でしたね。

蓬莱竜太に課せられた「名作」というオーダー


━━ 最道産子男闘呼倶楽部の作品では、いろんな方が作・演出を務めていらっしゃいますよね。今回の『きのう下田のハーバーライトで』という作品で、モダンスイマーズの蓬莱竜太さんとタッグを組むことになったのは、どういう経緯だったのでしょうか?

  • 津村: 犬道産子男闘呼倶楽部を立ち上げたときは、演者も作・演出も、スタッフさんも含めて北海道出身者でやろうと思っていたんですよ。僕自身としては、モダンとは違うことをやりたいという気持ちもありました。だけど、続けているうちに、そこにこだわるよりもシンプルに面白いものを作るべきなんじゃないかと考えるようになっていったんです。

    それと、コロナを経験して、演劇を10年先も、20年先もあるものとして継続していけるのか信じられなくなってしまったんですよね。世の中も、自分たちも、この先どうなるかわからないと思ったときに、今一番やりたいことをやろうという気持ちになりました。そういう心境の変化があって、僕はやっぱり蓬莱竜太を信頼しているし、面白いと思っているので、ダメ元で頼むだけ頼んでみたということになったんです。


━━ 津村さんから作・演出の打診を受けたときのことを、蓬莱さんは覚えていますか?

  • 蓬莱: えっとー、覚えてます。ただね、僕は作だけをやるんだと思ってて。たしか、その話を聞いたのって飲み屋だっけ?

    津村: 飲み屋ですね(笑)。

    蓬莱: そうですよね。ちょうどコロナが落ち着いてきた頃で、久しぶりに飲み屋に行って、演劇の人と話せることも相まって、すごくお酒が美味しかったんですよ。それで大事な情報を忘れてしまったんでしょうね。

    僕は今、劇団と商業演劇と自分のユニットの3本柱を軸に仕事をしていて、小劇場の作・演出ってしばらくやっていなかったんです。というのも、1本の作品を書いて、演出してというのを、自分はあと何回できるんだろうと考えるようになって。年齢も年齢なので、やることを絞っていかなきゃいけないなと思っていたんですよね。

    ただ、モダンの芝居を作るときは、いつも劇団員が努力してくれているんですけど、逆のことはしてないよなとも思って。僕はしてもらっているけど、劇団員の頼みに応えるようなことはしてないよなと。だから、今回は理屈云々ではなくやろうと決めました。

  • 津村: それは嬉しかったんですけど、僕がお願いするときの気持ちが入りすぎていて、「とにかく名作を書いてくれ!」みたいなことを言ったんですよ。飲み会の席で。それに対しては、あとから「いや、そんなの毎回思ってるし、敢えて言ってきたのはイラっとした」って言われて反省しました(笑)。

  • 蓬莱: なかなかないですよ、オーダーに「名作を」っていうのは。でも、これはその後の大事なワードになってくるんです。津村から今回の話を聞いたときに、「どこにでも持っていけて、二人が生涯にわたって演じていける作品にしたい」と言われていました。それは当然、名作じゃないと叶わないことじゃないですか。ただまぁ、作品って結果的に名作になっていくものなので、最初からオーダーに組み込まれているのは違いますよね。僕も毎回思ってますから、名作を書きたいって。

  • 津村:(笑)。

  • 蓬莱: だけど、「二人でいろんなところに持っていける芝居」というのが、これから道産子男闘呼倶楽部がやろうとしてることだというのはわかったので、そういうことを考えて作りました。

    津村: 東京と北海道で同じ公演をしようと思うと、やっぱりセットの移動が大変なんですよ。それがいつも悩みの種で。僕らの身ひとつでも「どっこいしょ」って感じなのに、セットや小道具を運ぶっていうのは本当に大変なんです。だから、これからも地方で公演をしていくために、より身軽に演劇ができる方法を模索していました。そういう話を、蓬莱にもしていたんです。


━━ 作品の内容については、蓬莱さんにお任せだったんですか?

  • 津村: 実はちょっと話はしてて、僕は「札幌に長距離バスが発着するターミナルがあって、そこで二人の男が話すような物語が面白いんじゃないか」ってアイデアを出していたんです。そのときはお酒の勢いもあって意気投合したつもりだったんですけど、あとから蓬莱に「あのアイデアどうかな?」って話したら、「陳腐じゃない?」って言われて(笑)。

  • 蓬莱: その話、覚えてないんだよね(笑)。

  • 津村: 「北海道の設定で作ってもらえると嬉しい」みたいな話もしてたんですけど、その辺もないものになってるなと思いましたね。

  • 蓬莱: 下田になっちゃったもんね。でも、別に下田のことを描いてるわけじゃないから、行く土地土地でタイトル変えられるとも言えるよね。

  • 津村: そうね。でも、今は下田に愛着が湧いてきちゃってます。

役者の人生と共に変化していく作品を目指して


━━ 今回の台本を読ませていただいたのですが、津村さんと犬飼さんが演じる姿がありありと目に浮かぶような物語、台詞、キャラクターでした。これは最初から二人をイメージして書かれたのでしょうか?

  • 蓬莱: 完全に当て書きですね。二人をイメージして書きました。今後も二人が演じていける作品であり、なおかつ見ている人に演劇の面白さが伝わるような作品にしたいと思って、登場人物の大学時代から現在までを描くクロニクル(年代記)を作りました。年代記って、公演のタイミングによって役者が登場人物と同じ年齢になっていたり、歳をとってもその時々で大学生を演じるという面白さが出てくるから、そういうことが演劇では可能なんだということを示せる作品にしたくて。


━━ なるほど。演じるタイミングによって役柄とピッタリはまるよさもあれば、年齢とのギャップが出る面白さもあるってことですね。

  • 蓬莱: あとは、人生を一緒に歩んできてしまった二人の悲喜こもごもと言いますか。そういうものが道産子男闘呼倶楽部の歩み、あるいは、ここまで役者をやってきた津村、犬飼さんの歩みにリンクして見えるような作品がいいなと思って。

    ちょっと変な言い方ですけど、いい歳して演劇をやっているわけじゃないですか。道産子男闘呼倶楽部も、モダンスイマーズも。僕たちの仕事ってそうなんですけども、一般的な働き方とはちょっとズレているようなところがあって。それでも自分たちで手を挙げて活動しているという、その元気さと悲しさっていうんですかね。そういうものが、二人の登場人物の人生にも重なっていく演劇がいいなと思ったんです。

    それと、大学生から社会人へと二人の年代が進むにつれて、どんどん「人生を失敗した」と思っていく物語は面白いなと。普通だとハッピーエンドが展開されて、二人の友情が描かれたりしがちですけど、そういうわかりやすいものではなく、どんどん失敗していくっていう。そういう人たちもフィクション以外の世界にはいっぱいいると思うので、そんな生き方を肯定できるような、勇気づけられるような芝居を作りたいという気持ちもありました。


━━ 犬飼さんと津村さんは、今回の台本を読んだときにどんなことを感じましたか?

  • 犬飼: これはもう大変だと思いましたね。二人芝居で楽なことはあり得ないんですけど、それにしても役者としては大変だろうなって。大変だから面白いっていうのは絶対あると思います。でも、この役は歳をとって体力がなくなっても演じられるのかなっていう不安はありますね(笑)。蓬莱さんの台本は、すごく微妙な人の感情が描かれていて、それは自分も日常的に感じたりしていることなんだけど、舞台で演じるって経験はあまりないので、そこは楽しみでもあります。

    蓬莱さんが描くキャラクターは、人間としてすごく好きな人もいれば、好きになれないけど憎めない人も多くて。今回の二人も面倒臭いなと思うところはあるけど、人間的には好きですね。

  • 津村: 僕は台本を読んで、登場人物の二人に流れている寂しさをすごく感じました。それは、自分自身にも直結する寂しさだったんですよ。道産子男闘呼倶楽部もモダンスイマーズもそうですけど、僕は夢中でお芝居をやってきたので、自分がある程度の年齢になっていて、もう折り返し地点にいるってことに対しては無自覚だったんですよね。前ばかり見ながら進んできたので。だけど、この本を読ませてもらったときに、「あ、俺はもうこの人たちと同じなんだな」ってことに気づいてしまって、切なくなったんですよ。登場人物が切ないのではなく、俺が切ないなって。だから、すごくズドンとくる本でした。

    それを踏まえて演じるっていうのは、自分の役者人生において大きな意味を持つと思います。そういうことも含めて、すごいものを書いてくれたなと感じています。

  • 蓬莱: 僕としては、この演劇を何年もやっていったときに、津村と犬飼さんのなかに芽生えてくるものや、作品に起きていく変化というものを、長期的に楽しみにしています。作品が僕の手を離れて、二人のものになり、10年後、20年後にはどうなっているのかなって。だから、今は卵を産んだに過ぎないというか。これからどういう料理になっていくのかを楽しみにしているというのが、率直な気持ちです。決して悲哀だけじゃないのかもしれないし、まったく別のものが見えてくるかもしれませんから。


━━ そういう視点で捉えると、初演はもちろんですが、演者の人生と共に作品自体が変化していくのも楽しみですね。

  • 犬飼: そうですね。僕たちの年代って、仕事や家庭、社会のなかでいろんな想いを抱えている人がたくさんいると思うんです。もちろん、どの世代の方でも楽しめる作品になっていると思うんですけど、近い年代の方々に舞台上でおじさんたちが喘いでいる姿を見てもらえたら嬉しいなと思っています。

  • 津村: この舞台を観に来て頂いた方が演劇って面白いと思ってくれたら長年演劇を続けて来た者として、これ以上の喜びはないですね。一人でも多くの方に観に来て頂きたいです。

  • 聞き手:阿部光平

作品名
道産子男闘呼倶楽部 「きのう下田のハーバーライトで」
作・演出
公演日程

2023年10月24日[火]~29日[日] 全8ステージ

※開場時間:開演30分前

※当日券販売:開演1時間前から販売 ※未就学児童の入場不可

会場
OFF・OFFシアター
世田谷区北沢2-11-8 TAROビル3F
■「下北沢駅」小田急線 東口・京王井の頭線 中央口より徒歩約1分
■ くわしいアクセス(MAP)https://www.honda-geki.com/access/
出演
津村知与支(道産子男闘呼倶楽部 / モダンスイマーズ)
犬飼淳治  (道産子男闘呼倶楽部 / 扉座)
チケット発売日
2023年9月1日[金] 10:00より発売開始
料金(自由席・整理番号付き・税込)
一般 3,500円 
U25 2,500円
(25才以下対象・要証明書・受付にて証明書確認)

チケットお取り扱い
■ ヨルノハテのチケットセンター
https://p-ticket.jp/yorunohate24時間受付・コンビニ発券チケット)
美術
中根聡子
照明
沖野隆一(RYU CONNECTION)
音響
今西工
舞台監督
田渕正博
宣伝美術
金子裕美
票券
鈴木ちなを
制作
岡島哲也
企画・製作
道産子男闘呼倶楽部
主催
一般社団法人モダンスイマーズ
助成
芸術文化振興基金助成事業
お問い合わせ
■ ヨルノハテの劇場:070-1483-2563 (平日11:00~18:00 *公演中を除く)

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